いのち・まるごと・支えるしごと 民医連看護ものがたり

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訪問看護で、
在宅の「安心」を支える。

その人らしい生活を送れるようにすることが、
私たち訪問看護の役割。

在宅ケアステーションげんき 大塚 容子

限界集落の患者さん

 京都市中心部から車で約2時間。在宅ケアステーションげんきは、あやべ協立診療所の2階に事務所を構え、訪問看護と訪問介護の事業所として12年目を迎えます。5人の看護師で70人弱の患者さんを担当しています。市内に2ヶ所しかない訪問看護ステーションのひとつです。軽自動車で東西南北、綾部市全域を駆け回ります。
村山さんのお宅は、ステーションから約31km、車で40分。山道を奥に入り、いくつかの集落を過ぎると、村山保さん・ハナ子さん夫妻の住む10軒ほどの集落です。福井県に近いこの地区は過疎化が進み、いわゆる「限界集落」です。高齢の夫婦・単身世帯がほとんどです。冬は厳しい寒さと厚い雪に覆われます。4月頃まで雪が残り、訪問看護にもスコップが必需品。
保さんは72歳で脳梗塞を発症し、寝たきりに。両脚は伸びきり、片方の腕は曲がったまま。言葉は話すことができず、頷いたり、手を動かして意志を示します。誤嚥性肺炎※1を繰り返すため、医師は胃瘻※2を作る事を勧めましたが、ハナ子さんは頑としてゆずりません。
「自分が絶対口から食べてもらうようにする」

 

食パンを栄養剤に浸したパン粥が、保さんの食事。一口ずつすくって一日かけてでも食べさせ、足りない栄養は点滴で補います。腰が曲がった小さな体で、背の高い保さんの体の向きを変えるだけでも一苦労。
週2回の移動購買車にパンが売り切れてしまった時は、バイクに乗って峠を越え、福井県まで買いに行きます。それでも、畑でいい野菜ができれば「お父さんがおってやおかげ」と、いつでも保さんのことを忘れません。

お母さんを支えるのが仕事

保さんの訪問看護は週に1〜2回。全員の看護師が交代でケアにあたり、毎日のミーティングで情報を共有します。2週に1度往診に行っている診療所とも連絡を取り合い、「いつもと容態が違うな」と感じた時はすぐに発信します。
「保さん、おはよう!」と看護師が声をかけると、時には笑顔を見せてくれる保さん。口腔内の清拭、吸引、床ずれ予防の処置や排泄援助などのケアに「ありがとう」と言葉が出る時も。
終わったあとは、いつも30分ほどハナ子さんと話をします。
「昨日こんなことがあって...」「むせるんやけど、体の向きはどうしよう」
介護の苦労話、世間話...ハナ子さんにとって看護師との会話は大切な時間。そそくさと切り上げることはできません。
「お母さんが倒れたら何にもならへん、お父さんを支えてるお母さんを支えるのが私たちの仕事」
と看護師で介護事業部門管理者の大塚容子さん。
「看護婦さんに来てもろたら安心や」「状態の変化がすぐわかってもらえる」
の言葉に励まされます。
大きな危機もなく7年が過ぎました。しかし次第に保さんの体力は落ち、昨年の11月。辺りが雪に覆われる前に、住み慣れた我が家で最期を迎えられました。
年が明け、ハナ子さんは娘さんに伴われてげんきの事務所を訪れ、堰を切ったように泣き出しました。「もっともっと世話をしようと思っていたのに...」と声を詰まらせます。
「お母さん7年間がんばったんやから! お父さんも悔いは残ってないと思う。感謝して天国でお母さんを見守ってくれているよ」
励ます看護師たちも、涙をこらえることができませんでした。

背景を知ってこそ

訪問看護は、制度面での問題も多くあると同時に、知識・技術面での大変さもあります。
「一人で訪問して、自分の判断で対応することもすごく多い。マニュアルどおりにはいきません。生活されている場面や家族の背景も関係してくるし、地域の状態や制度の事、さまざまなことを知識として持っていないと対応できないんですね」
と大塚さん。
他の事業所との連携は欠かせません。診療所、デイケア、ケアマネジャー、一人の利用者さんに複数のサービスで関わり、問題があればカンファレンスを持って対応します。また、京都協立病院の作業療法士・理学療法士にリハビリを教わって、患者さんに提供しています。大塚さんは言います。
「ちょっとでもよくなる兆しが見られた時が、やりがいを感じる時。患者さんや家族と一緒になって喜びます。患者さんは一人ひとり背景が違います。そんな中でその人らしい生活が送れるよう支援していくことこそ、私たち訪問看護の役割かなと思います」
季節によって表情を変える風景を楽しみながら、患者さんのもとへ「げんき」を届けに走ります。

※1 飲み込む力が衰え、食べ物が気管に入るため起こる肺炎
※2 手術で腹部に胃に通じる穴をあけ、チューブを介して栄養を入れる方法

みんいれん ココがだいじ!

「このまちで暮らしたい」を支えるシステム

民医連の事業所には、病院や診療所だけでなく、老人保健施設や介護事業所もあります。ずっとこの町で暮らしたいという患者さんの願いをサポートするためです。訪問看護は、医療的なケアを必要としながらも在宅で生活されている患者さんを支える仕事です。医療から看護・介護へ、看護・介護から医療へと、切れ目無しに患者さんの生活を支えます。

事務所★DATA

在宅ケアステーションげんき
訪問している患者さんの約半分はあやべ協立診療所、もう半分は地域の開業医さんの患者さんです。精神科の患者さんの訪問看護を受けているのは綾部市内ではげんきだけ。精神疾患に対応するための知識も必要なため、職員教育に力を入れています。
  • 所在地:綾部市
  • 事業内容:訪問看護・訪問介護
  • 職員数:14人
  • 利用者数:看護・介護あわせて約140人
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